『キッチン』(吉本ばなな)感想

キッチン 本のtips
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BANANA FISHにどハマりしていたとき(今も沼の奥深くにいますが)、これまでなら気にもとめなかった作品の、ほんの一文が刺さって頭から離れない……みたいになることが、たびたびありました。

先日読んだ『キッチン』(吉本ばなな)も、そんな作品のうちのひとつです。

概要とあらすじ

概要

「吉本ばななの『キッチン』」って、たぶん、「言わずと知れた名作」と同じ意味を持つのでは、というくらいに有名で、とても高い評価を得ている作品だと思います。

私が「ねぇこれ読んだんだけど、すごっ……すごくて、あの、すごいよかった!!!!」とか言ったところで
「えっ今さら?!」
ってなるみたいな。

まだ読んでなかったの?
みたいな。

1988年刊行らしいです。30年以上前。
『キッチンは』短編集で、「キッチン」「満月(キッチン2)」「ムーンライト・シャドウ」の3編が収録されています。

刊行30年記念のページがありました。

吉本ばなな『キッチン』刊行30周年 『キッチン』と私 | 新潮社
吉本ばななさんの『キッチン』の単行本が福武書店より刊行されたは1988å¹´1月30日、30年前の今日でした。刊行30年を祝ã...

こちらのページも、とても読み応えがありました。

ただ生きている。
それだけの事を、こんなにも褒めてくれるのは、
この物語だけだと思う。
木村文乃

このページの冒頭にあらわれる木村さんのこの言葉に、「わかる……っ!」となりました。
木村文乃さん、好きになりそう。

『キッチン』『満月』のあらすじ

主人公の女学生が、唯一の家族を亡くすシーンから始まります。ろくに身動きもとれず、ダラダラと怠惰に死んだような日々を送っていた主人公は、祖母の知人だという男性から誘われ、奇妙な共同生活を送ることになるのですが……。

と、いうような話です。

変わっているのは、主人公が「この世で一番好きな場所は台所です」と言って、台所で毎夜眠りについている、ということ。
その点以外は、たいへんに「まっとう」です。

主人公に「自分のうちで一緒に暮らそう」と言い出すほとんど他人の青年も、いきなりそんな誘いをするという点以外はやっぱり、たいへんに「まっとう」。

とても「ふつう」の人なのです。
青年と同居している青年の母親もまたしかり。
他者からはもしかしたら「変わっている」と言われるのでしょうが、やっぱりとてもまっとうで。

そんなふっつーーーの人たちが、しかし、それぞれの抱えた喪失ゆえに、少しだけネジのずれた生き方をしています。

『キッチン』の続編にあたる『満月』では、さらなる死別という悲劇に2人が見舞われます。
喪失を抱えたまま日々生活をする2人は、喪失を経ることでまたいくつかのことを獲得してもいきます。

何かの淵に立ったとき、その首の皮一枚ぶんのギリギリに肉薄した短編です。

『ムーンライト・シャドウ』のあらすじ

こちらも、物語は大切な人の「死」からはじまります。
恋人を亡くした主人公は、悲しみを抱えたままもがき、生きるために日々走り込みに勤しみます。そんな中で主人公は、思い出の橋のたもとで不思議な女性に出会います。
主人公の恋人には弟がいて、この弟は、兄と自分の恋人とをいっぺんに亡くす、という経験をしています。

主人公とこの弟は、お互いにお互いだけが理解し合える存在になっていくのですが、お互いしかいない、というどん詰まりの中に謎の女性があらわれることで、小さな不思議がおこって……。

という話。

 

感想

ひたすら「人の死」に満ちた一冊だったな、という印象です。

『キッチン』『満月(キッチン2)』の感想

それがすぐ隣にあると知ってしまったあと、日々の生活は生きることそのもので、とても力強い営みである、ということが、どうしてもわかってしまうような。

死からはじまって、また死ぬので、死のにおいが強すぎて中盤、何を読んでも「これももしや死亡フラグなのでは……?」と疑い出す、という症状に見舞われました。

日常生活の描写は、とても素晴らしいです。
日々を営む、ということの強さがとても鮮やかに描かれています。

主人公たち、みんなみんなが愛おしい作品。

あまりにも悲しいことのせいで振り落とされないように、生きることに必死でいっぱいいっぱいで、でもやさしいから相手の手を離せず、強さを持っているからちゃんと離れようとして、でも「生きよう」「生きてほしい」と思うから、どうしても手をのばさずにいられない人たち。

その手をとるかどうかは、100%相手に委ねている。
そういう、冷たく淡々としているようにさえ見える温度感も気持ち良いです。

彼女たちはどこまでもひとりで、ひとりのままです。
手を取り合うことすら満足にしないし、でも指先だけはつないでいるような。決っして離さない、と決意されているかのようなその指先のとうとさよ……。

わかりあえても決して同化はしないし、「癒しあう」ことさえしません。
尊敬と尊重があるからこその、距離感です。

名作です。

『ムーンライト・シャドウ』感想

こちらに出てくる人たちは、『キッチン』の2人よりもさらに、なお不器用です。
失ってしまった大切な人たちの方に行ってしまいそうなところを、ランニングとセーラー服だけが、かろうじて生の場につないでくれています。

そんな首の皮一枚で生きてる”同志”の2人に、小さな不思議が降って湧いて出ます。

よかったな、と思ったのは
その不思議とキセキに出会えたのが、「運が良かったほうの1人だけ」ではなかった、ということです。

死んだ人と別れ、わかれることでその人たちともともに生きられるようになる、ということ。
そういう可能性の提示をしてくれた作品だと思います。

文庫版あとがき『そののちのこと』に思ったこと

あとがきの冒頭で

この小説がたくさん売れたことを、息苦しく思うこともあった。

と書かれていました。

なぜなら吉本ばななさんは、彼女の中にある信念に基づいて作品を書いていて、その信念が向かう先であるところの人たちに届けたい、それだけである、と考えていたそうなのです。

それは、そういう人たちを生かすための営みで
私は「そうか……そうな、そうだな……ありがとう……」
と思いながら読んだのですが、
吉本ばななさん曰く、「そうじゃない人たち」にも多く届き、読まれてしまったことで、苦しみがあったそうで。

たしかに、私が「これはいい! おすすめしたい!」という作品に出会ったときにも、そこには2つの種類があります。

  1. 広く、ともかくたくさんの人に知られ、ひたすらたくさんの人に読んで欲しい作品
  2. 必要としている人に、必要なだけ、必要なときに、どうか間に合うように届いて欲しい作品

の2種類です。

で、たしかに『キッチン』は、後者の物語だと思うのです。

しかし。

当初吉本ばななさんに想定されていた以外の人にも多く読まれ、有名作品になってくれていたからこそ、私もこの作品に出会えたのではないかな……とも、思います。

だってそうじゃなかったら、
運命的に感じられた一文に出会うことも、文庫化されることも、それが電子書籍化されることもなかったでしょうから。

それにもしかしたら、
吉本ばななさんが思うよりも、私が「そうだな」と思ったよりも、本当はこの物語を必要としている人は、もっとずっと多いのかもしれません。

ともかく私は、この作品との出会いに感謝したい気持ちでいっぱいです。

もし、どこかに「なるほどな……?」と思う点があったら、ぜひみなさんにも読んでいただきたい。
有名なのは伊達じゃない。

まごうことなき名作、傑作でした。

以上です。

 

<<今日のtips>>

吉本ばなな『キッチン』は、死別や喪失を抱えた人、生き方をよく思い出せなくなってしまった人にぜひ読んで欲しい作品。

 

お読みいただき、ありがとうございました*^^*

 

書いている人;やまママ
yamamamatips

川越の近所に住むフリーランス&書店員。若い人たちに性教育などする仕事をしていました。
通勤電車スキーな卵アレルギー持ち幼児を育てつつ、ゆるワーキングマザー生活を満喫中。

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